こんばんは。以前、ラグナロクオンラインモバイルの記事を書いた際に話題にしましたが、10月31日にグラビティはプレス向けの発表会を韓国で行ったそうです。
主な話題はグラビティの事業の現状と展望で、ラグナロクオンラインモバイル(ラグナロクオンラインのスマートフォン版。中国語タイトルは仙境传说RO:守护永恒的爱)やRAGNAROK R(スマートフォン向けターン制のシミュレーションRPG)などのタイトルの拡充が主な話題だったようです。
その中で軽く触れられていたのが、Ragnarok:Zeroというプロジェクトです。このプロジェクトは既存のPC版ラグナロクオンラインのクラシック版を再ローンチするという物です。
Ragnarok:Zeroの具体的内容は、「思い出」「改善」「進化」をキーワードに、60レベル、1次職、攻城戦、ルーンミッドガッツ王国などの定番の設定に焦点を合わせた、過去の思い出に浸る事の出来るコンテンツを盛り込んだタイトルとして提供するとの事です。
Ragnarok:Zeroは既存のラグナロクオンラインとは別のサービスであり、クライアントやアカウントも別のものになるそうです。
ラグナロクオンラインを0からやり直す新サービスというと、JROのユーザーとしては、どうしてもBreidablikワールドの事を連想してしまいます。
Breidablikワールドもラグナロクオンライン10週年を記念して新たに開設された新ワールドであり、「ラグナロクオンラインの10年間を追体験する」というコンセプトを元にアップデートが行われました。
ワールド開設当時は基本無料であり、レベルも60までに制限され、職業も1次職のみだったり、マップもルーンミッドガッツ王国のみに制限されるなど、BreidablikワールドとRagnarok:Zeroのコンセプトは非常に似ています。
過去の記事で何回か触れましたが、グラビティは売り上げの6割近くを未だにラグナロクオンラインという過去のタイトルに頼っている会社です。ラグナロクオンラインに変わるタイトルを用意できていない現状では、既存のラグナロクオンラインの知的財産を活用し、新たな事業を起こす必要があります。
Ragnarok:Zeroはその事業の一環として、計画された物なのでしょう。
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'라그나로크의 귀환' 턴어라운드 성공한 그라티비의 도전 : 네이버 뉴스
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[게임 만평] 그라비티 '라그나로크'로 국내 게임 시장 평정 꿈꾼다 : 스포츠조선
新ワールド「Breidablik」では「ラグナロクオンライン」の10年間が追体験できる。10周年記念「βプロジェクト」の正体とは - 4Gamer.net
グラビティのプレス向け発表会の記事の中に「海外で「ラグナロク」のクラシックなサーバーを再ローンチした結果、平均同時接続者が3倍以上に増えた」という記述がありますが、韓国のゲームのWikiサイトによると、これは日本の事ではなく、東南アジア(タイ、フィリピン、インドネシア)での成功を指すらしいです。
フィリピンでは、2015年3月にラグナロクオンラインのサービスは終了しているらしいのですが、2017年の6月からサービスを再開し、オープンβテストを実施しているらしいです。
フィリピンのオープンβテスト時には職業は2次職までしか開放されていないらしいです。これは「海外で「ラグナロク」のクラシックなサーバーを再ローンチ」という記述と一致します。タイとインドネシアについてはソースとなる情報は見つかりませんでした。
라그나로크 온라인 - 나무위키
Ragnarok Online Philippines launches open beta testing | Inquirer Technology
他にも、グラビティの北米支社であるグラビティインタラクティブは2017年6月からRagnarok Online RE:STARTというサービスを展開しているらしいです。
Ragnarok Online RE:STARTのページには、「古典的なMMORPGラグナロクオンラインのノスタルジアを体験しよう!iROは、最初のProgression Serverで2003年に遡ります。新しいコンテンツやアップデートを初めて体験しましょう!」という記述があり、JROのBreidablikワールドやRagnarok:Zeroとほぼ同様のコンセプトのサービスであるようです。
playragnarokrestart.com
Ragnarok RE:START FAQ - WarpPortal
RE:Start - iRO Wiki
Ragnarok RE:START(@RagnarokRESTART)さん | Twitter
Ragnarok Online: RE:START - Ragnarok 1 Community Chat - WarpPortal Community Forums
これらの計画の開始時期を時系列で見ると、「クラシック版ラグナロクオンラインで過去の思い出を追体験しよう」という一連の計画の源流には、2013年に開設されたJROのBreidablikワールドがあるように思います。
JROのBreidablikワールドの新設には、ラグナロクオンラインを「やり直す」事により、過去のプレイヤーをラグナロクオンラインに呼び戻すという目的があった事は当初から明言されています。
実際、その目論見はかなり成功し、Ragnarok Online板@MMOBBSの「jROの接続人数を書き写すスレ」の過去ログによると、ワールド開設当初はBreidablikワールドのユーザー数は5000人を超え、その後は1700~2000人という高いユーザー数を保っています。
●jROの接続人数を書き写すスレ● #37
JROではBreidablikワールド以外のワールドのユーザー数は緩やかな減少傾向が続いており、リニューアルによる0からのスタートでユーザーを呼び戻すという目的はかなり達成されているのではないでしょうか。
Breidablikワールドの成功はガンホーのRO運営チームを通じて、グラビティには当然伝わっているでしょう。また、グラビティはガンホーの子会社であり、グラビティの取締役には、ガンホーの代表取締役である森下一喜氏、同社の役員である北村佳紀氏、坂井一也氏が含まれ、ガンホーとグラビティの取締役を兼任しています。尚、北村佳紀氏はグラビティの北米支社であるグラビティインタラクティブの代表取締役でもあります。JROの状況はRO運営チームだけでなく、取締役会を経由して、グラビティの経営陣にも直接伝わっている可能性は否定できません。
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JROにおけるBreidablikワールドの成功とワールド開設から4年経過しても多くのユーザー数を保っているという実績が、グラビティにRagnarok:ZeroやRagnarok Online RE:STARTといった既存のタイトルの再ローンチという計画を立て、実行を決心する材料になったというのはありそうな話ではあります。
問題はこれらの計画が果たして、JROのBreidablikワールドの様に成功するのかは不明ですが、タイ、フィリピン、インドネシアなどの地域では成功しているらしいので、案外上手くいく可能性もあります。
ラグナロクオンラインの再ローンチが東南アジア地域で成功した理由は、恐らくは0からのスタートということでユーザー間の格差や人間関係のしがらみがなく、純粋にゲームを楽しめるという要因もありそうです。
これはMMORPGに限らず、SNSの様なサービスにも当て嵌まる事です。かつて、大学生向けのSNSとしてスタートしたFacebookは、ユーザーの高齢化や中高年層への普及により、親や教師の世代が使っているFacebookを10代の若年層が倦厭し、若年層の利用率が下がっている事は報道されています。
MMORPGは根本的な仕様として、常にゲーム世界が存在し、現実世界と同じ時間の流れにあります。その為、ゲームに投入した時間がキャラクターのレベリングやアイテム、ゲーム内通貨などの資産に直結する為、先にプレイを始めたユーザーに有利であり、その他のユーザーはそれに追い付くことは非常に困難です。これは2000年代初頭に仕様がまとめられた、いわゆる「量産型MMORPG」の一種であるラグナロクオンラインでも色濃く見られる傾向です。
ラグナロクオンラインでは装備品をはじめとするゲーム内資産の有無が、あらゆる場面で決定的に重要です。ラグ缶などのガチャやパッケージを通じて配布される課金アイテムの存在もそれに拍車をかけています。
ユーザー間にゲーム内資産の格差がある事はある程度は仕方がないのですが、それがあまりに行き過ぎるとユーザーの新規参入を鈍らせる要因になり得ます。新規のユーザーが古参のユーザーに追い付くことが極めて困難であったり、対人戦でほぼ勝つことが不可能という状況は長期的に見ると望ましい事とは思えません。ゲーム内資産の格差がユーザー体験の質の差となって現れてしまい、古参やアイテム課金を積極的に行うユーザー層のみが満足するという状況が生まれ、新規のユーザーが定着しなくなることが予想されるからです。MMORPGのユーザー体験の価値の一つにはユーザー間の交流も含まれるので、ゲームの人口が増えない、または維持できなくなるという流れはサービスそのものの価値を損なってしまいます。
もっとも、上述の問題は古い設計のMMORPGが抱える根本的な仕様が原因なので、特定のユーザー層や運営が悪いという事ではないでしょう。2001年頃にラグナロクオンラインの根本的な仕様を策定した開発者も、10年以上の長きに渡り、ラグナロクオンラインのサービスが存続するとは考えていなかったでしょうから、前述の通り、誰が悪いという問題ではないと思います。
現時点では、JROに於いてユーザー人口を高く保っているワールドはBreidablikのみなのですが、これには上述のような理由が考えられます。
しかし、これから先もBreidablikワールドが安泰かは保証の限りではないと思います。他のワールドと比べ、歴史が浅いためにユーザー間のゲーム内資産の格差は他のワールドよりも深刻ではない思われますが、それも時間の経過と共に深まっていく事は疑いありません。
JROでは、現在、ロビーワールドというワールド間の人口格差是正の施策が準備されていますが、それが不発に終わった場合、kROのバフォメットワールドの様に基本無料アイテム課金制のワールドが新設されるかもしれません。
Ragnarok:Zeroの様な企画はBreidablikワールドの繰り返しになるので、恐らくは実施されないと思いますが、基本無料アイテム課金制のワールドはJROでは未だに無かった(Breidablikワールドのプレイ料金無料は期間限定である事は当初から明言されていた)ので新たに開設される可能性はなくはありません。kROでは2008年からそのようなワールドがありましたし、月額課金制のMMORPGが基本プレイ無料アイテム課金制に移行した例は数多くあります。今年の8月にサービスを終了したガンホー運営のエミル・クロニクル・オンラインもそのようなMMORPGの一つでした。
仮に基本無料アイテム課金制のワールドが開設されれば、kROで2008年にに基本無料アイテム課金制のバフォメットワールドが開設された際、ユーザーの大半がそこに集中し、他のワールドが過疎化したのと同じことがJROでも起こるのかもしれません。その場合、現在、Breidablikワールド以外のワールドが味わっている過疎化の苦痛を、Breidablikワールドも味わうことになるでしょう。
JROの今後については、ユーザーとサービスそのものだけでなく、それを取り巻く開発会社、運営会社も関わる問題である為、率直に言って分かりません。
過去の考察記事でも触れた通り、ラグナロクオンラインを取り巻くガンホーとグラビティの関係は極めて複雑です。ラグナロクオンラインのライセンスの実施権者であるガンホーが実施許諾者であるグラビティを買収して子会社化し、その取締役会に親会社のガンホーの役員が参加するという会社と人事の関係もそうですが、かつては売り上げの75%をラグナロクオンライン関係に頼っていたガンホーはパズドラのヒットにより、その状態から脱したにも関わらず、グラビティは未だに売り上げの6割近くをラグナロクオンライン関係に頼る状態であるなど、利害関係は錯綜しています。
また、古参に居心地の良いコミュニティに新規の参加者が伸び悩むという問題も、MMORPGに限らないインターネット上のサービスの宿痾でもあります。この問題をJROは乗り越えられるのか、それともこれまでにサービス終了に追い込まれた数多くのサービスと同じ道を辿るのかは分かりませんが、その記録の断片だけでも、このブログに書き残していこうと思います。
今回はここまでにします。それでは。